Software Design 連載 第20回 オープンデータIDEA BOXブレスト in Sendaiの紹介


この記事は、技術評論社 Software Design 2013年9月号の転載です。
記事のPDFはこちらからダウンロードできます。 技術評論社のご協力に感謝いたします。

Hack For Japan

エンジニアだからこそできる復興への一歩

オープンデータIDEA BOXブレスト in Sendaiの紹介

東日本大震災の復興支援に端を発し、社会的課題をテクノロジ で解決するためのコミュニティ、Hack For Japanの活動をレポートする本連載。今回は宮城県で行われたオープンデータに関 するイベントの模様を紹介します。

Hack For Japanスタッフ
小泉 勝志郎 Katsushiro Koizumi Twitter @koi_zoom1

Hack For Miyagi紹介

Hack For Miyagiは今までの連載で紹介されてき たHack For Japanの宮城県での活動となります。 Hack For Miyagiでは「被災地と直接つながっている」という立地上の利点を活かし、震災復興団体とIT技術者がお互いに意見を出し合うミーティングの開催をしています。Hack For MiyagiにはFacebookのグループもあり、ここで意見交換やイベントの告知が行われています。
今回は2013年2月22日に行った「オープンデータIDEA BOXブレスト in Sendai~Hack For Miyagi」(以下、オープンデータ IDEA BOX ブレ スト)の模様について紹介していきます。

オープンデータ  IDEA BOXとは

本題に入る前にまず、オープンデータIDEA BOXとは何かを説明しておきましょう。これは内閣官房、総務省、経済産業省による「オープンデータについての意見を国民から聞く」ための Web サイトです(図 1)。このサイトを通じて「どのような利用のアイディアがあるのか」、「どのようなデータ公開を望むのか」、「公開や利用のルールはどうあるべきか」といった意見を誰でも投稿・投票でき、オープンデータ推進のために役立てられるという素晴らしい取り組みでした。2013年2月1日~28日の1ヵ月間運営され、現在ではユーザ登録は行えず閲覧の み可能となっています。Facebook や Twitter などの Open IDでもログインでき、登録の煩雑さもなく気軽に意見を書けるようになっていました。

図 1 オープンデータ IDEA BOX

図 1 オープンデータ IDEA BOX

開催のきっかけ

 オープンデータIDEA BOXブレストを開催するきっかけとなったのは、2013年2月15日に開催された「DevelopersSummit2013Action!」(以降、デブサミ)のセッション「OpenData とハッカソンで変わる世界」を聞いたことにはじまります。このセッションの中で「オープンデータ IDEA BOX」が紹介されました。前述のように素晴らしい取り組みなのですが、残念なことにデブサミ開催時点での意見登録数は70に届くかどうか。この数字は少々寂しいところです。デブサミのテーマは「A c t i o n !」。いいと思ったらまずやってみる。そこでこの「オープンデータ IDEA BOX」に入れるアイディアを出すためのブレインストーミングを行うことを思いつきました。デブサミのセッション終了後、早速登壇者の皆さんのところに行き、「オープンデータIDEA BOXブレストをやります」という話をすると、「2013 年 2 月 23 日の International Open Data Day の前にやってもらえるとうれしい」とのこと。この流れでデブサミから1週間しか間があかない2013年2月22日に開催することになりました。

イベントの流れ

ブレインストーミングがメインですが、アイディアを出すには前提知識があったほうがより良いもの が生まれます。そのINPUTを作るために、イベントは次の流れで行いました。
  • オープンデータについての説明 
  • IDEA BOX への投稿を見る
  • 海外での事例を知る
  • ブレインストーミング
  • 投稿! 

オープンデータについての説明

参加者にはオープンデータについて初めて触れる 人たちもいるので、オープンデータ系では定番となっているティム・バーナーズ=リーのスピーチをみんなで視聴しながらの導入です。

IDEA BOXへの投稿を見る

既存の投稿アイディアを見ることでそれに対する意見も生まれますし、似たような事例が思い浮かぶこともあります。

海外での事例を知る

オープンデータの成功事例は海外に多くありま す。Open Knowledge Foundation Japanの東富彦氏
がまとめてくださっている、海外でのオープンデー タ事例をいくつかピックアップしながら見て行きました。

ブレインストーミング

こうして得たINPUTを元にブレインストーミングを行います。実はHack For Miyagiではもう1つ大きなINPUTがありました。それは参加者のみなさんの被災体験です。
続いては当日の様子です。

当日の様子

前述のように間がない中での開催でしたが、行政からは市職員、メディアからは地元TV局、復興関係からは某社復興室室長、そしてIT技術者と豪華な面子でいろいろ裏話も聞けたおもしろいイベントになりました。オープンデータには「データを提供する側」「アプリやサービスを作る側」「アプリやサービスを使う側」の3つの視点があります。今回のイベントにはこの3つの視点がバランスよくそろったうえ、TV局というメディアの視点も加わった興味深い議論が繰り広げられました。  裏話については残念ながら誌面では触れられませんが、当日上がった興味深い意見についていくつか紹介いたします。

注目意見ピックアップ

●フランスの自転車ルート検索サイト同様の情報 を日本でも提供してほしい
海外事例のINPUTから生まれたアイディアです。フランスの自転車ルート検索サイト「Geovelo 」では、自転車での走行ルートを安全性を重視するか、距離の短さを重視するかで比重を変えて検索できるようになっています(図 2)。同様のことが日本でも行えれば、自転車利用者には非常に有用でしょう。とくに坂道の情報は、現在の地図情報やカーナビで大きくフィーチャーされているわけでは ありませんが、自転車では自動車以上に大きい価値 を持ちます。

図 2 Geovelo

図 2 Geovelo

●交通事故発生状況のマップ化
過去から累積した交通事故発生状況を地図上にマッピングできるようにしたい、という要望です。時間軸を限定した閲覧をすることで、その時間帯での交通事故多発地帯を避けたナビゲーションもできますし、あるときを境に事故が増えたり減ったりしていることがわかれば、その原因や事故対策効果が可視化されることを期待しています。こういった情報は転居を考える際の指標にもなるでしょう。
この意見に対しては投稿後に、警視庁では東京での交通事故発生マップを公開しているという意見をいただきました (図 3)。この取り組みが全国的に展開され、時系列も含めた可視化ができるとなお良いと思われます。

図 3 交通事故発生マップ

図 3 交通事故発生マップ

データは JSON 形式でも公開してほ しい

 今回あがった中では「オープンデータを利用した サービスを作る側」の意見です。  オープンデータでは「XMLで提供」となることが多いのですが、現在では多くのWeb APIがJSONで提供されています。XMLと比較すると、利用する側はデータをパースする処理の記述を大幅に軽減でき、提供する側は送信データ量が減るというメリッ トがあります。
JSON での提供が難しい場合は、公開されているXMLを民間の業者がJSON化して再配布することを許可してもらえると、JSONで公開と同様の効果を生めるでしょう。この意見についてはオープンデータIDEA BOX内では否定意見もありました。否定的にあげられた意見は次のようなものです。「JSONだと開発者向け過ぎる」「すべてJSONにするのは大変なので、 CSVとして公開してほしい」「XMLをJSONにするくらいのことは真っ当な開発者ならすぐにできること」。異なる視点からのフィードバックを受けることで、より意見もブラッシュアップされて行くと思われます。

課題先進地としての東北

東日本大震災は大きなダメージを残しました。しかし、ここで発生した地域の過疎化、住民の高齢化、産業の振興など、被災地で発生している課題はいずれ他の地域でも発生しうる課題が多くあります。被災地である東北は日本、そして世界の課題に真っ先に直面している「課題先進地」としての側面もあるのです。

●観光のためのオープンデータ
震災復興におけるキーワードに観光があります。この観光を促進するオープンデータとして、たとえば「地域ごとのイベント情報」があります。「イベントが行われるからそれとあわせて観光」という行動は十分あるものです。この観光の呼び水となるイベントデータは決して公開されていないわけではありませんが、情報が分散しているのが現状です。すべてを集めるのは難しいですが、自治体が後援しているものはマシンリーダブルな形で提供するなど、観光に携わる人がより利用しやすい形で取得できればより良いでしょう。

●被災時の自治体からの災害情報
これは筆者自身の体験を含む意見です。東日本大震災での被災当時、市役所に置かれていた災害対策本部ニュースにかなり助けられました(図 4)。
塩竈市災害対策本部ニュース

図 4 塩竈市災害対策本部ニュース

図 4 塩竈市災害対策本部ニュース

しかし、緊急時であることもあってかマシンリーダブルではなく、なおかつ印刷物のスキャンであるため外部の人がこの情報にたどり着けていなかったようです。自治体が緊急時の災害情報を出しやすく、なおかつマシンリーダブルに出力できるしくみがあると今後の大災害でも力を発揮するでしょう。共通のフォーマットを利用した配信しやすいしくみにするなど、この災害対策本部ニュースで出している情報はそのフォーマットのヒントになるのではないでしょうか。

イベントを終えて

当日のイベントであがった意見は次のURLにま とまっていますのでぜひご覧ください(図 5)。

図 5 オープンデータ IDEA BOX に投稿したイベントでのアイディア
図 5 オープンデータ IDEA BOX に投稿したイベントでのアイディア

なんと、1 週間未満という短期間で準備したワンデイイベントが、オープンデータIDEA BOXにあげられた意見のおよそ1 割を占めるという成果を出 すことができました。今回のイベントがきっかけとなり、イベント参加者の方が主導したマップ系のイベントが仙台でも行われました。仙台でのオープンデータの動きに多少なりとも貢献できたのではないかと思います。

最後に

Hack For Miyagiでは復興に携わっている方とIT技術者が議論することで生まれる化学反応を生み出したいと思っています。今後も定期的に開催していきますので、よろしくお願いいたします。

Comments