Software Design 連載 第15回 気象データハッカソン

この記事は、技術評論社 Software Design 2013年3月号の転載です。
記事のPDFはこちらからダウンロードできます。 技術評論社のご協力に感謝いたします。

Hack For Japan

エンジニアだからこそできる復興への一歩
“東日本大震災に対し、自分たちの開発スキルを役立てたい ”というエンジニアの声をもとに発足された「 Hack For Japan」。本コミュニティによるアイデアソンやハッカソンといった活動で集められた IT業界の有志たちによる知恵の数々を紹介します。

第15回
気象データハッカソン

●Hack For Japanスタッフ
関 治之 Hal Seki
Twitter @hal_sk

 社会的課題をテクノロジで解決するコミュニティHack For Japanではハッカソンを中心にさまざまな活動を行っています。今回は、気象データを使ったハッカソンについて報告させていただきます。

気象データハッカソンとは?

気象データハッカソンでは、気象庁の協力のもと公開されている気象データおよび他のデータを組み合わせて活用することにより、新たなサービスに関するアイデアを得て試作品を開発します。そしてそのことにより、広くオープンデータの意義や可能性を世の中にPRすることを目的としています。オープンデータ流通環境の実現に向けた基盤整備の推進を目的に産官学が共同で運営する組織、「オープンデータ流通推進コンソーシアム」が主催し、Hack For Japanがハッカソンのオーガナイズを行い2012年12月1日に開催されました。
オープンデータによる社会変革については私個人的にもテーマにして活動している分野であり、過去にもInternational Space Apps Challenge(本誌2012年7月号 連載第7回に掲載)、オープンデータハッカソン(同2012年10月号 連載第10回に掲載)のオーガナイズをやらせていただいています。

オープンデータとは?

オープンデータとは、直訳すると文字どおり「オープン」なデータということになりますが、Open Knowledge Foundationが公開しているオープンデータハンドブック注1によると、“オープンデータとは、自由に使えて再利用もでき、かつ誰でも再配布できるようなデータのことだ。従うべき決まりは、せいぜい「作者のクレジットを残す」あるいは「同じ条件で配布する」程度である。”とあります。より具体的には、「利用でき、アクセスができる」「再利用と再配布ができる」「誰でも使える」のがオープンであることの定義とされています。
この定義のポイントは、「相互利用性」にあります。データをオープンに公開し相互利用性を高めることで、さまざまなデータセットを組み合わせることが可能となるからです。データセットを公開することで、その組織がもともと目的としていた利用用途以外の価値が生まれたり、新たなイノベーションが生まれることがオープンデータの狙いと言ってもいいでしょう。政府や自治体がデータプラットフォームになり、民間や大学がそのデータを使ってより良いアプリケーションを作るというわけです。
ワールド・ワイド・ウェブ(WWW)の生みの親であるティム・バーナーズ=リーは、2009年のTEDで、「生のデータを今すぐに」という呼びかけを政府や科学者などに行い、翌年の2010年には、「オープンデータとマッシュアップで変わる世界注2」という有名な講演を行い、オープンデータによる社会的イノベーションの事例を数多く発表しています。
「オープンデータ」という言葉を使う場合、「オープンガバメントデータ」という意味合いを持っていることが多いです。政府は税金を利用して大量のデータを日々作成していますが、そのデータは国民の資産であり、可能な限り公開されるべきであるという「Open By Default」という考え方が欧米を中心に広がってきているのです。

日本のオープンデータの状況

日本ではこの分野ではこれまで欧米に後れを取ってきましたが、震災時に政府や自治体などのデータがうまく活用されなかった反省などに後押しされ、最近にわかに機運が高まってきています。2012(平成24)年7月4日、政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT戦略本部)が「電子行政オープンデータ戦略注3」という文書を発表しました。序文に「オープンガバメントの推進に当たっては、公共データは国民共有の財産であるという認識の下、公共データの活用を促進するための取組に速やかに着手し、それを広く展開することにより、国民生活の向上、企業活動の活性化等を図り、我が国の社会経済全体の発展に寄与することが重要であるため、公共データの活用促進のための基本戦略として、『電子行政オープンデータ戦略』を以下のとおり策定する。」とあるとおり、政府としてオープンデータ化を進めていくという戦略です。
IT戦略本部の下部組織として、「電子行政オープンデータ実務者会議」という組織が置かれ、ルール整備や普及のための議論、技術的なフォーマットや公開の仕方などを検討中です。筆者はこのオープンデータ実務者会議の中の、ルール・普及ワーキンググループの委員も務めています。
また、経済産業省や総務省が積極的に実証実験を開始しており、たとえば経済産業省はCKANというオープンソースのデータカタログソフトウェアを利用して省内のデータをオープンに提供していく、オープンMETIという取り組みを始めようとしています。
オープンデータに関する最新ニュースはオープンデータの普及を目指す組織である「Open Knowledge Foundation Japan注4」のサイトが詳しいので、一度アクセスしてみていただければと思います。

気象データハッカソン

前置きが長くなりましたが、上記のような背景のもと、オープンデータの具体的な活用方法を探るために気象データハッカソンが開催されました。
今回のハッカソンでは気象庁にご協力をいただきました(写真1)。気象庁は全省庁の中でもかなり早くからデータの電子化を始めた省庁であり、今では大量のデータを持っていますし、ホームページでも予報データなどを公開しています。しかし、天気図などは閲覧できていても生データとなると、あまり使いやすい形式では取得ができません。一部のデータについては、申請を行えばDVDなどの媒体でデータを入手できたりしますが、API形式で提供されたりはしていません。
オープンデータ流通推進コンソーシアムのページやHack For JapanのFacebookページ上などで告知を行い、50名ほどが集まりました。事前にFacebookグループを作り、アイデアソンも実施していますが、そちらには170名ほどが参加し、40以上のアイデアが投稿されていました。

気象庁のマスコットキャラクター、はれるんとケーブルとレッドブル
写真1 気象庁のマスコットキャラクター、はれるんとケーブルとレッドブル

ハッカソンの模様

当日は、まずは気象庁の担当者から、気象庁のことや気象庁が扱っている気象データについて、法令などの解説を行っていただきました。参加者全員の自己紹介の後、アイデアを持っている人が内容を発表、それぞれに賛同者が集まることでチームを形成しました。
最終的に次の6チームに分かれハッカソンを実施しました。

①「おしゃれ予報」チーム

お出かけ先と気候、手持ちの洋服をもとにお勧めの服装をアドバイス

②「住みよいマップ」チーム

気候や生活利便性、災害リスクなどのデータを地図上に可視化

③「満ち干きマップ」チーム

浜辺の潮の満ち干きを可視化し、海水浴や潮干狩りなどに活用

④「体質ナビゲーション」チーム

本人の体質とその日の気候、予定などをもとにアドバイス

⑤「Crowdmapと地図のマッシュアップ」チーム

既存のサービス「Crowdmap」にさまざまな気象データをマッシュアップ

⑥「統計データ×気象データ」チーム

消費支出などの統計データと気象データの相関を分析・可視化

 今回はエンジニアがあまり多くなく、ハッカソンへの参加自体もはじめてという方が結構いたにもかかわらず、皆さま活発に議論をしながらサービスイメージを作っていきました。気象庁の方もグループに入り、そのままの形式では使いにくいような複雑なフォーマットのデータから必要なものだけを抜き出す作業などをお手伝いいただきました。
3時間ほどの作業を行い、その後各チームからの発表を行いました(写真2)。さすがに時間が短くシステムの完成まではいきませんでしたが、住みよいマップチームやCrowdmapと地図のマッシュアップチームは、ある程度のプロトタイプを作ることができました。他のチームも、システムとしてどのような機能をもったサービスを作るのかを示すことができておりました。
最後に参加者の中での投票を行い、最優秀プロジェクトに決まったのが体質ナビゲーションチームでした。熱中症や高血圧などになりやすい個人の体質情報と特定エリアの天候を掛け合わせることで、自分にとって症状が出るリスクが高い地域が地図上でわかるというものです。これにより、外出先のエリアが過ごしやすい場所か、住みやすい場所かなどを知ることができるわけです。実際に気象データを使って動くシステムやデモを作るまでには至りませんでしたが、有用性が評価され最優秀となったのだと思います。発表の後に気象庁の方や参加者から、「どこからデータを取ってこれそうか」などのアドバイスがあり参考になりました。
その後行われた懇親会にも多くのメンバーが参加し、有意義な交流を行うことができました。

ハッカソンの模様
写真2 ハッカソンの模様

オープンデータをテーマにしたハッカソンの意義

開催後も気象データハッカソンのFacebookページ注5では意見交換がされており、参加者も増えて200名を超えています。気象庁の担当者も参加しており、開催当時には公開されていなかった、気象庁データのXML配信システム注6の解説なども行われています。
オープンデータを進めるうえでの課題の1つに、「提供する側も使う側も、最適な手段や範囲をわかっていない」というものがあります。提供する側は、データを再フォーマットするにもサーバを立てるにもコストがかかってしまいます。一方、データを使う側も、そもそもどんなデータがあって自分たちのどのようなサービスに使えるのかの理解があまりありません。双方の対話なしにはとても最適解は見つからないのです。
ハッカソンを開催することで、両者に具体的なサービスを意識した対話が生まれます。データ提供側はより適切な提供方法を考えることができ、使う側はどのようなデータがあるかを知ることにより、新たなサービスや既存サービスを改善するための着想が生まれます。
対象ドメインに対するスペシャリストやクリエイターを緩くつなげられるコミュニティビルディングという意味でも、ハッカソンとFacebookグループの組み合わせは有効であると考えています。
一方、半日ではできることが限られてしまっているため、正直なところアウトプットとしてはあまりたいしたレベルにはなりません。チームとしてもハッカソンが終わったら解散してしまうのがほとんどであるため、ハッカソンで発見したコンセプトをどう育て、サービス化までつなげるかという部分は依然として課題になっています。何か良いアイデアをお持ちの方は、ぜひ筆者までご連絡いただれば幸いです。

あなたの協力が必要です

オープンデータを使って良いシステムを作るのはエンジニアであることから、政府のオープンデータの第一のユーザはエンジニアであるとも言えます。オープンデータによる社会変革にはエンジニアの協力が不可欠です。本書の読者にもエンジニアが多いと思います。ぜひ力をお貸しください。
一方、「私はエンジニアでない」という方でも活躍の場はたくさんあります。デザイナーや学者、PR企画、アントレプレナーなど、さまざまなタイプの方が参加することで参加者の多様性が生まれ、そこからイノベーティブなアイデアが生まれます。ぜひあなたのアイデアで世の中をより良い方向にするきっかけを生み出していただきたいと思います。
Hack For Japanでは、今後オープンデータをテーマとしたハッカソンをどんどん行っていきます。ぜひHack For Japanのホームページ注7やFacebookグループ注8などを通じてハッカソンに参加してください。

脚注

注1)Open Data Handbook http://opendatahandbook.org/
注2)ティム・バーナーズ=リー「オープンデータとマッシュアップで変わる世界」 http://www.ted.com/talks/lang/ja/tim_berners_lee_the_year_open_data_went_worldwide.html
注3)http://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/denshigyousei.htm
注4)http://okfn.jp/
注5)https://www.facebook.com/groups/549985991685416/
注6)気象庁防災情報XMLフォーマット形式電文の公開(試行)について http://xml.kishou.go.jp/open_trial/index.html
注7)http://hack4.jp/
注8)https://www.facebook.com/groups/hack4jp/

 
この文書は、クリエイティブ・コモンズライセンスの下に提供されています。
著作者の表示・非営利・改変禁止の条件に従い、この文書を再利用していただけます。
CC-BY-NC-ND
Ċ
Seigo Ishino,
2013/06/10 22:05
Comments